作詞コンテスト2008 審査資料

審査員とその略歴
風のイオナ
フリーライター
音楽関連のコラム等でも活躍中
独特のキャラクターは漫画化もされています
桂 唯祐
作家
Gag Bank Vol.20でデビュー
幅広い分野で文筆活動をされています
お嬢様
ニートという名のMC、インタビュアー
現在バンドで作詞活動を精力的に行っています
毒舌です
しるふぃ
一流大学の着ぐるみ愛好家
行政書士・薬剤師有資格者です
ヨシミ22歳
そのへんのバーチャルネットストーカー
あなたへ
作詞:REN
2008年3月3日応募

日常では気軽には言えても、ここ一番でなかなか伝えられない。「ありがとう」という言葉は時と場合によって軽くもなり、重くもなる不思議な言葉だったということを改めて思わせてくれるのだった。「ありがとう」、ちゃんと言えたらいいよね!

ちょっと総文字数に比べて伝わる事が少ないようにも感じたり。「何かを感じてた」など、抽象的表現が多くて全体的にぼんやりともやがかかったようなイメージに。題材は良かったのですが、仕上げ上げ切れていない感があって残念です。 韻がきちんと踏めていないねえ。それと、タイトルは「あなたへ」ではないほうがふさわしいんじゃないでしょうか。曲の内容からいって、すべて「あなたへ」の言葉ではないと思うので。あと、うーん。「愛にありがとう」じゃないかもなあ。つながっていないかも。 すごくよくあるテーマなのでまるでどこかで聞いたことがあるかのようです!  「何かを感じてた」過去に感じたことを今覚えてないんじゃ意味ないじゃんと思ったり、「裏切られて」というのがあまりに強すぎて浮いてたり。
うーん。「何かを感じてた」の部分、もうちょっと気のきいた言い回しにならないでしょうか。かなり良い題材で勝負していただいているのに、細かな部分に目が行き届いていない気がして残念です。しかし、今後の発展に期待します。
はじめて。
作詞:犬女
2008年4月3日応募

世界は裏切りばかりだし、キラキラした未来なんてあるワケがない。いつになっても変わっていくのは周りばかりで、変わらない自分がそこにいる。そんなこたー、とっくのとうに知ってたさ。それでもキミが隣りにいてくれたら……。そう思うだけでとりあえず生きていけるんだよね。そんな詞。「涙がきらり」に突っ込むのは野暮ってもんだ!

ぼんやりとした世界感自体は独特なのでいいかなぁとか思ったりもするのですが、世界がそこにあるだけで伝わる物がいまいちないので残念。深層心理の世界ってこんな感じなのかしら。とりとめないことをとりとめないままで。でもそれを昇華し切れていないのかなぁ。 言葉が回りくどすぎるんじゃないでしょうか。何を言いたいのか伝わってこない気もします。ただ、素直な言い回しの部分は伝わりやすくて言葉の運び方がきれいでよく意図が伝わります。でも、わからないところは意味がわからないような…。曲のタイトルが「はじめて。」というのは、どういう意図なんでしょう。 「静寂の愛に終わりは来ない」 という表現はすごく好きなのですが、主題に一貫性がない感じ。 「きっとそのかなしみも~ホントの光り」あたり、もう読者おいてきぼりです。 「世界(そら)」の部分は「ああ、文字数で相当なご苦労をなさったんだな」というような気がいたします。これはもう、かなりいい感じのラブソングなんでしょうけれども、あまりヨシミ的にはリアリティがない、というか、ヨシミの経験の不足加減が悪いんでしょうけれどもね!
(タイトル無し)
作詞:@yumi
2008年4月8日応募

恋愛とはある意味無いものねだり。欲しいものを追い求めた結果は「甘い果実」かもしれないし、「茨の道」かもしれない。どんな道であっても結末はいつだってスリリングなものだ。とりあえず四の五の言わずに当たって砕けとけ! ……という自分への応援かと思いきや、同時に他人も応援しちゃう。懐のデカイ応援ソングなのね。

共感を得やすい主題と言い回し。真正面からぶつかることがいつでも正しい訳じゃないなんて思ってしまうのは私がひねくれ者だからなのですが。ここ一番の説得力があればより素敵な歌になっていたと思います。 ああ、嫌いじゃないですね、これは。すごく素直に言いたいことを書いていて、それなのにきれいな言葉回しで…。でも、曲に合っているかどうかと思うとわからないですけどね。あと、タイトルがないのは惜しいと思います。 「味気の無い想いでも渡してしまえばいい」というのが、「彼女さん、彼氏さんのことが好きでなくてもとりあえず装ってあげれば彼氏さんは十分なんだから!」というすごく背徳的な読み方をしてしまったのですがどう考えても間違いです。さて。
「中身は分からないけど~甘い果実」のくだりは大好き。構成はすごくいいのですけど、 「身にまとう装飾なんかも放り投げ」ってのが唐突なのと、前半でやさしく見守ってるプライドが実は砕けてしまっていたのが、あれえ?って印象。
2回か3回くらいメールを送ったんですけれども、タイトルをお返事いただけなかったのがやはり大きなマイナスになるんじゃないかと思うんですけれども…。それを差し引いたらとても良い感じの歌詞になるような気がするのに、非常に惜しいというか、そういう感じです。
メガネ讃歌
作詞:サコ
2008年4月21日応募

床屋の目印でもあるクルクル回るアレ。あれが欲しくて欲しくてたまらなくなって夜中にコッソリ盗んじゃうことを唄ったのはCOILの「クルクルフェチ」だったっけ。そんなことを思い出させてくれる行き過ぎた愛はメガネ男子からメガネそのものに! メガネだけあって中身はイラネ、そんな予想のナナメ上をいく結末はユーモアセンスなのか歪んだ愛なのか。メガネフェチの明日はどっちだ!?

洗脳歌? と思うほど素敵。すらすらと流れるような文体と、突飛な流れ、なにより主題。合わさって電波曲として高みに向かっています。ところどころ突飛な表現が気になったのだけど、それが魅力なので改善点を明示出来ないのは私の力不足ー。 いいなあ! ちょっとまって…。タイトルも言いたいこともわかりやすくて、萌えがつまっていて電波電波しているところが良いと思います。 これがデュエットソングだとしたらすばらしいです!ユーザーと観察者の立場がごちゃごちゃなので、整理してサビで二人でメガネ愛を讃えればいい歌になると思うんだけどなあ。 もしかしてこれは…。メガネというものが何らかの巨大な比喩になってこの作品自体を大きく支配しているのかも知れない、というふうに思えてならないのですけれども。心理学的に考えてどうなんでしょう。とても気になります。サラサラと書かれているのですが、自然な文体も魅力的です。
赤と白のハンバーグ
作詞:お子様あき
2008年4月26日応募

すりつぶされて一緒になったあと、それを食べてくれる人なんていないのにね。残されたハンバーグには焼け焦げたセルロイドの人形と奇形のロバを混ぜて絶望の丘に置いてこよう。そんな風景を幻燈機械が映し続け、部屋は亡霊だらけなんだ。うん、きっとそうだ。キミも僕も今では飼育くらげ。深く深く沈んでいくよ……。

突飛すぎて置いてきぼり感が。なんだろ。うーん。コメントすら難しい前衛芸術のような。伝わる物があるのかないのかそれすらもわからない。難解なのか、なぁ。 曲と合わない。Dir en greyの影響を受けているのがわかります。多分そうだと思うんだけどなあ…。で、これをどう歌いたいのか作者さんに問うてみたくなるような歌詞だなあ、と思いました。 3分間考えたけど意味が分かりません・・・  「赤いキカイの眼と体」って何~「キカイのこぶし」って何~ うーん。こういうネタで勝負をするんだったら、ものすごくなんかずば抜けたものがないと、この作詞コンテストでは難しいんじゃないか…というふうに思うんですけれどもね。全体的に悪くはないんですけれども、こういう歌詞がしっくり来るようなことを想定して作られた曲ではない、でしょうからね。
右隣りの笑顔を、
作詞:旭下弦
2008年4月28日応募

別れた相手が笑顔でいられるってことは、別の相手が幸せにしてることを意味するわけで。本音から言えばそんなこと望んでるわけなかったりする。「貴方をもう一度抱きたい」それが叶わぬ願いとわかってるなら自分に嘘をつくこともアリなのかもね。

具体的なエピソードがほぼないと、説得力に欠けたり弊害が多いわけですが、逆に想像力をかき立てるというか誰にでも当てはめやすくて自分について歌われているように感じられるメリットも。するっと世界にはいることが出来て、歌に気持ちを重ねやすくて逆に具体性はいらないかなぁという感じで。 文字数が合わないですよね…。笑顔が欲しいこともわかったし、失恋したこともわかった。けれども、失恋したことに対するエピソードが不足していて、共感できるところが足りないような気がします。 某「認定死神の~」で読んだことのあるようなテーマですね!  「どんな時もあの頃のままの笑顔で居ますか?」が流れをぶったぎってたり、「笑顔忘れたくなくて」というのがどうしてここにあるのか分からなかったり。 非常に残念ながら、文字数がちょこっと合わないんですよね。本当にいい感じの歌詞なのに、そのへんが残念です。非定型の歌詞を書くか、あるいは歌詞先で曲を作ったりすると才能を存分に発揮していただける、そんな方なんじゃないかと思います。いかがでしょうか。
しゃぼんだま
作詞:浅葱なつき
2008年4月29日応募

大きくなって空に飛んでって、割れて消える。しゃぼんだまは生まれた瞬間から、消えることも運命で決まっている。割れないしゃぼんだまなんてあるわけないのだ。すぐ消えるかもしれない、もう少し浮いてられるかもしれない。恋愛としゃぼんだまって似てるね。

言葉のあやかしら。シャボン玉に対して育てるという表現は不適当な気が。全体としては、ふわふわとした流れと主題から来る哀愁感を秘めた奥深い味わいの曲だと思います。自分の世界がしっかりとあるので、細かい日本語的な問題をクリア出来ればもっと良くなりそうです。 ああ~。ストーリーとしてつながっている気がしますけれども、しゃぼん玉は育てるものじゃないだろう、という気がするのです。ただ、言いたいこと、大事なことが繰り返されていて、わかりやすい歌だな、と思いました。 表現はふわふわしててとても気持ちいいです。でもいかんせんさすがに繰り返しがくどいです。 「この青い空」「僕の空」「君の空」の関係がうまくつかめませんでした。 シャボン玉というと悲劇の象徴なんですけれども、やはりこの歌も全体的にやるせない哀しさが漂っているように思えます。この曲について考えれば考えるほど悲しくなってくるんですけれどもね…。「ふわりふわり」という表現をこれほど悲しく感じたことは、今まで無かったですね。
手紙
作詞:サコ
2008年5月5日応募

叶わない夢を妄想で塗り固められた変態一歩手前の切ない純愛ソング、ブルーハーツの「ラブレター」はそういう曲だった。でもね、もしかしたら手紙を書いて想いを伝えるってことは変態一歩手前の純愛精神なんじゃないかな。自分の手が書いた「好き」届くといいよね。

自分はこういう小説を書くからこそなのですが、一昔前の感性で一般受けしづらいというか。綺麗で素敵なのですか純愛すぎるのかな。きれいきれいで終わってしまいそうでちょっと怖いような。人間そんなに綺麗だけで出来ていなからリアリティが薄まってしまうのかも。 言いたいことはすごく伝わってきて言葉の運びもすごくきれいだと思う。韻も踏んである。ただ、手紙だと当たり前すぎてタイトルに面白みがないかも。共感はすごくできるので、悪くない歌詞だと思います。 うわあ(笑)(いい意味で)→「数え切れない~届くといいな」  すごくピュアであったかい印象を受けます。しかし「伝えたいことをまとめるの難しいね」と力技でまとめてしまうのは反則ではないか?という印象も受けます。 手紙、ですか。これはもうかなり秀逸な歌詞だと思うんですけれども、うーん。「夜中には書けない」とか、そういう基本をしっかりと押さえてあってさすがだと思います。歌詞全体から白色を感じる構成になっていて、そのあたりが意図されたものなら非常によいと思います。
面影
作詞:天播
2008年5月6日応募

涙で歪みきった世界を拭ったとき、本当に歪んでいたのは自分だったことに気づかされる。それがこの世の摂理ってもんだ。狂気と正気はいつだって隣り合わせなのだ。立ち上がることができたら歩きだすこともできる。そんな簡単なことに気づいたのなら、確かにもうだいじょうぶだ!

人間の感情がそのまま流れ出たような曲。でも、ストレートにはき出しすぎて裏目に出てしまっているのかなぁと思ったり。創作の世界には、ちょっと現実から離れたなにかと、その作品の締めで感じる読後感みたいなものが欲しいので、はき出した物を昇華するプロセスがあるともっと伝わりやすいのかと思います。 前を向きたいのか後ろを向きたいのかわからない。吐き出した感が強すぎて、歌詞になっていないな、という感じがした。まとまっていないような。 これはヨシミさん作ではなかろうか~
最後のストーカーエンドで終わらせるなら「転んだままの~」のくだりは必要ないような気がします。いっそ突き抜けてしまえ。「それでもまた歩き出すことができると信じ続けてるのは君だけ」ってのは好きなんだけどなあ。
「厭わない」とか、そういう言い回しは私が好んで使うんですけれどもね。でも、タイトルが「面影」。うーん。もうちょっとひねってくれればかなり印象も違ったんじゃないかと思います。でも、なかなか良い感じですよねえ。

 

ヨシミ22歳による総評

 今回の作詞コンテストは、とにかく曲が難しかった、正確に言うと「難しいという印象を与えるに十分だった」と言えよう。聴いている分にはそんなにもトリッキーな感じはしないはずなのだが、とにかくもう「楽譜が難しく見える」というだけで応募を断念された方も多かったのではないだろうか。今回、応募をいただいた方の中にも、楽譜の難しさに萎縮してしまい、伸びやかでオリジナリティあふれる歌詞を書くに至らなかった人も見受けられた。楽譜の難しさで曲が決まるわけではない。あくまでも記譜法の問題であるので、このあたりが非常に悔やまれる結果となった。

 各審査員からなかなかの辛辣な意見も飛び出しているが、作詞者の皆さんにはこの意見にひるむことなく、これからもオリジナリティあふれる作品を書いていっていただきたいと思う。少なくとも私よりも優れた作品を書くことの出来る皆さんである。その点については自信を持ってもいいのではないかと、私は勝手に思っている。

 今回、グランプリ作品は「メガネ讃歌」とした。総合的に余力の感じられるのびのびとした言葉遣い、そして絶妙な比喩、電波ソングっぽさを評価した。しかし、他の作品にも惜しい点が数多く見受けられている。今後のさらなる奮起を期待したい。

 また、本来であればほぼすべての作品に初音ミクによる歌入れをしたかったのだが、不備のある歌詞や文字数の合わない歌詞が予想以上に多かったために見送らせていただく。その点、ご了解いただきたい。

 最後に、歌詞の審査のスケジュールが大幅にずれ込み、多くの皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びしつつ、本コンテストの総評とする。

(2008/6/12 文責:ヨシミ22歳)